ONEのハイドレーションテストとは?安保瑠輝也の計量失敗で注目の計量ルールを解説
最終更新日 · Fight Atlas編集部 · 読了 7分
何が起きたのか:安保瑠輝也が2戦連続の計量失敗
2026年10月16日、翌日に東京・有明アリーナで開かれる「ONE SAMURAI 4」の計量で、キックボクサーの安保瑠輝也が計量をクリアできませんでした。対戦相手はブルガリアのボグダン・シュマロフで、ライト級(170ポンド=約77.1kg)のキックボクシングの試合が予定されていました。
報道によると、経過は次のとおりです。
| 時刻 | 体重 | ハイドレーション(尿比重) | 結果 |
|---|---|---|---|
| 午前10時30分ごろ(1回目) | 169.4ポンド(リミット以下) | 1.0292(基準1.0250を超過) | 不合格 |
| 正午ごろ(2回目) | 170.2ポンド(リミット超過) | 1.0310 | 不合格 |
1回目は体重こそリミットを下回っていたものの、ハイドレーションテストで基準を超えてしまい、2回目は体重・ハイドレーションの両方で基準を超えました。計量の受付時間内にクリアできなかったため、計量失敗という扱いになりました。
安保はONEデビュー戦となった2025年11月のマラット・グレゴリアン戦でも計量をクリアできず、試合はキャッチウェイト(規定外の体重)で行われて判定負けしています。今回はその反省もあって階級を上げての再起戦でしたが、2戦連続の計量失敗となり、本人は「ほんまに意味わからん」と困惑を口にしました。
計量から5時間たった午後6時の時点でも基準をクリアできず、テストはその後も続きました。安保は同日夜、自身のXで、8回目のテストでも尿が濃いと判定されたこと、自分は脱水症状ではなく体質だと考えていること、翌朝8時から再びテストを受けることを明かしています。
https://twitter.com/anpo_rukiya/status/2111089324670271685
そして大会当日の10月17日朝、安保は9回目のテストでも基準をクリアできず、試合は不成立になったとXで報告しました。前夜は体重を増やさないよう食事を控え、水分を多くとって臨んだものの、朝の検査も不合格だったといいます。ルールそのものへの疑問を投げかけつつ、チケットを買って応援に来るファンに向けて謝罪しています。
https://twitter.com/anpo_rukiya/status/2111270418049089779
この日の計量では、安保のほかにも2選手が計量・ハイドレーションテストをクリアできませんでした。
- 吉成名高の世界タイトルマッチ(アトム級ムエタイ):王者の吉成はクリアしましたが、挑戦者のリファディン・マスドールが体重超過。試合は行われるものの、マスドールが勝ってもベルトは獲得できない条件になりました
- フェザー級キックボクシングトーナメント準決勝:ルオ・チャオが体重超過となり、キャッチウェイトでの交渉もまとまらず、試合は中止になりました
ハイドレーションテストとは
ハイドレーションテストは、選手の体内の水分が足りているか(脱水状態になっていないか)を調べる検査です。尿を採取して「尿比重」を測り、1.0250以下なら合格です。
尿比重は、尿がどれだけ濃いかを示す数値です。体内の水分が少ないほど尿が濃くなり、数値が高くなります。つまり、ハイドレーションテストに落ちるということは「体の水分を抜いて体重を落としている(脱水状態にある)」と判断されることを意味します。
ONEでは、体重がリミット以下であることと、ハイドレーションテストに合格することの両方 を、決められた時間内に満たして初めて計量クリアになります。今回の安保の1回目のように、体重がクリアしていてもハイドレーションで不合格なら計量は通りません。
なぜONEだけハイドレーションテストがあるのか
きっかけは2015年の選手の死亡事故
ONEがこのルールを導入したきっかけは、2015年12月に起きた事故です。ONEのフライ級の選手だった中国の楊建兵(ヤン・ジェンビン)が、試合前の過酷な減量による脱水と熱中症で亡くなりました。
これを受けてONEは、脱水による減量を禁止する新しい計量ルールを発表し、2016年1月から導入しました。
「水抜き」を禁止する仕組み
多くのMMA団体では、試合の前日に計量を行います。そのため、計量の直前に汗をかいて体内の水分を一気に抜き(いわゆる「水抜き」)、計量をパスしたあと試合までに水分と食事をとって体重を戻す、という減量が一般的です。試合当日には、計量時より大きく体重を戻してリングやケージに上がる選手も珍しくありません。
この水抜きは体への負担が大きく、場合によっては命に関わります。ONEのハイドレーションテストは、計量時に脱水状態でないことを確かめることで、水抜きによる減量そのものをできなくする 仕組みです。選手はふだんの体重(ウォーキングウェイト)に近い状態で試合に臨むことになります。
尿比重は体の状態によっても変わる
安保は「確実に体質」だと訴えていますが、尿比重は体内の水分量だけで決まるわけではありません。スポーツ科学の研究では、次のような要因でも数値が上がることが指摘されています。
- 筋肉量が多い
- たんぱく質を多くとっている
- 高強度の練習を続けている
- 採尿のタイミング(前回の排尿から時間がたつほど尿は濃くなる)
格闘技選手を対象にした研究では、体重が安定しているのに尿比重では約9割の選手が「脱水」と判定されたという報告もあり、尿比重だけで脱水を判断することの限界が指摘されています。2020年のスポーツ栄養学の総説も、尿比重には個人差があるため、全員に同じ基準値を当てはめるのは避けるべきだとしています。
一方で、一般的には尿比重1.020を超えると脱水の目安とされ、ONEの合格基準(1.0250以下)はそれよりゆるめに設定されています。今回のケースで何が原因だったのかは、公表されている情報からは判断できません。
ONEの階級は他団体より重い
水抜きができない分、ONEの階級は、同じ名前の他団体の階級より重く設定されています。
| 階級(ONE) | 体重上限 |
|---|---|
| アトム級 | 115ポンド(約52.2kg) |
| フェザー級 | 155ポンド(約70.3kg) |
| ライト級 | 170ポンド(約77.1kg) |
たとえばONEのライト級(170ポンド)は、UFCではウェルター級に相当する重さです。ONEで「ライト級」の選手が、他団体の同じ階級名の選手より大きく見えるのはこのためです。
計量に失敗するとどうなる?
今回の3試合の扱いから、ONEで計量に失敗した場合の流れがわかります。
- ハイドレーションテストに合格するまで試合の交渉に進めない:時間内にクリアできなかった選手も、その後に非公式のテストを続け、基準をクリアして初めて相手陣営とキャッチウェイトでの試合交渉ができます。安保のように最後までクリアできなければ、試合は成立しません
- 相手陣営が受け入れなければ試合は中止:ルオ・チャオの試合のように、交渉がまとまらなければ試合は行われません
- タイトルマッチでは、計量失敗した選手は勝ってもベルトを得られない:マスドールのように、試合は行われてもタイトル獲得の資格を失います
計量の失敗は、対戦相手の準備や大会全体にも影響します。ハイドレーションテストは選手の安全を守るためのルールですが、その分、選手には計量の数週間前からの計画的な体重管理が求められます。
計量・減量に関する用語
「体重超過」「キャッチウェイト」などの用語は「MMA・格闘技用語集」で、団体ごとのルールの違いは「MMAのルール入門」で解説しています。ONEの大会の視聴方法は「日本で格闘技を観るには?配信サービスまとめ」をご覧ください。
ONEに出場する選手や大会は、ONE Championshipの団体ページから確認できます。
参考
- ONE Championship公式 ONE SAMURAI 4 計量・ハイドレーションテストの影響
- ENCOUNT 安保瑠輝也、2戦連続計量オーバー
- ENCOUNT 計量から5時間も尿比重テスト未クリア…試合実施は未定
- スポーツ報知 3選手がハイドレーションテスト失敗
- デイリースポーツ ONEで計量失格続出
- Sherdog ONEが選手の死亡を受け新たな計量ルールを導入(2015年)
- IMMAF ONEが脱水による減量を禁止
- ONE Championship公式 青木真也が解説するONEの階級制度
- Barley et al. (2020) Reviewing the current methods of assessing hydration in athletes
- Zubac et al. (2018) Urine specific gravity as an indicator of dehydration in Olympic combat sport athletes